角の感触

「角って触られるとどんな感覚?」

私をひざ枕をして頭をなでていたご主人様がふと言った。青と緑の境界のような瞳が静かにこちらを見つめる。

……この状況はその、私が頼んだりしたわけではなくて、ご主人様がそうしたいと言うからこうなっているだけで。とにかくこれは自分の意思でなっているわけではない。
正直なところすごく幸せです。
頭を乗せるのをためらうくらいほっそりとした足を柔らかな生地越しに感じて、繊細な指先が頭を何回も往復するたびにちょっとくすぐったい。
これにどんな意図があるのかは私にはわからないが、なんだか褒めてもらってるみたいでうれしい。

「ねえ、聞いてる?」

明らかにすねた声色。顔の方を向くと少しむくれたご主人様。こんなこと言ったら絶対に怒らせてしまうけど、むっとしているときのご主人様はいつもより幼げで可愛らしい。
いけない、こんなこと考えてる場合じゃなかった。

「え、あ、はい……!」
「……どんな感じ」

顔をじっと見つめながら角の先をつつかれる。角でも様々な種類があるが私のは皮膚が硬質化したもので神経は通っている。あまり詳しくはないが感覚はあるのでおそろくは。

「ううん、特に。普通、です……?」
「…………」

無言で角を触られ続けた。
額と比べると角は感触が薄いような気がする。

「いやらしい気分になると伸びるって本当?」
「なっ……!? 断じて違います、悪質なデマです……!」
「ふーん」

つまらなそうな返事。
というかその変な噂は何なのか。角を卑猥な器官として見られていたのだろうか?
そんなことは聞いたことないけどもしも伸びてたらすごく恥ずかしい。いや、そもそもいやらしい気分なわけじゃないけど……!言われてちるとなんとなくやらしい手つきで触れられていたような……?
気のせい、気のせいと自分に言い聞かせてなんとか平静を装った。

「じゃあ固くなったりとかは」
「ち、違います!そういう、いやらしい部位ではないですっ……!」
「あっそう」

……もしかしてからかわれていたのだろうか?真に受けて動揺してたのがますます恥ずかしい。
だけどご主人様に冗談を言われるくらいの仲なのがちょっとうれしい。そんなふうに思えるのは私がご主人様を慕いすぎているだけか……?

「味はする?」
「しませんっ……!た、確かめないで大丈夫です……!」

舌を覗かせたご主人様に舐められる前に静止した。だって、その、意識させてからそういうのは……。よくない、すごくよくない。
だって私はご主人様にいやらしいことをされたいわけじゃ……!決してイヤとかそういうことじゃなくて、こんな私がご主人さまとそんな、……やっぱりだめ……!

「っふふ、顔真っ赤。可愛いな」
「そんなことないです……! 可愛くなんて、ないですよ」

意地悪く笑うその顔は拗ねていたときとは逆に大人びて見えて。その表情で見下されることが私はなにより好きだった。
地味でつまらない平凡な私。それと逆の華があってなんでもできるご主人様が私に微笑みかけてくれる。
そうたくさんの人には見せないであろう表情を見せてくれるのがどうしようもなくうれしい。

「表情に出やすいところとか。そういうのが可愛い」
「からかうのもたいがいにしてください。……本気にしてしまいますから」
「僕は真面目に言っている」

ご主人様の細い指が輪郭をなぞる。恥ずかしいからそらしていた目線が合ってしまった。するとご主人様は目を少しだけ細めて笑う。……ああ、だめになってしまいそう。だけどそれでもいいような。この人にだめにされてしまいたい。

「……もう満足したからいい」
「ええと、それならよかったです……?」
「もっと可愛がって欲しかった?」
「そ、そんなことは、ちょっとだけ……、いえ何でもないです!」

余計なことを言ってしまう前に自分から体を起こした。ご主人様は心なしか上機嫌なように見える。私をからかうことで楽しんでもらえるならそれでいい。……ただ少しだけ、一瞬だけ勘違いしてしまうことを許してもらえたら。

「また今度ね」

ご主人様は立ち上がってスカートの裾を軽くはたく。そして、それをぼんやり見つめている私の角にキスをした。
……感触が薄いなんて気のせいだったのかもしれない。あたたかくてやわらかい唇の感覚はしばらく忘れられそうになかった。