BL

8.咲 【裏】

終わりのない悪夢の一部と思っていたそれはどうやら現実のようで、耳に届く恨み言は徐々に鮮明さを増していく。「…………あなたなんてきらいだ」「……ごめんね」とっさに口から出たのは詫びる言葉。夢で何度繰り返したことか。「……っ!」「あはは、なんだ…

8.咲 【表】

淡い花の蕾はもう明日にも開きそうだった。それでもあの人は眠ったまま。やっぱりもう、だめなのかもしれない。そんなことを眠たい体を起こしながら思う。それは仕方がない。仕方のないことだと自分を納得させようとして、また涙があふれる。こんなことをして…

頁外1.嘘をついていい日

※エイプリルフールネタ、眷属化後のいつかの時空「今日は嘘を吐いてもいい日なんだって」にこにこしながら唐突に言い出す咲々牙。よくあることだ。それでいきなり買い物に行ったり、星を見に行ったり色々付き合わされる。そうやって強引に付き合わされるのも…

7.朔 【裏】

あの日から一年。今ではもう毎日の流れが馴染んでしまった。咲々牙の隣で眠って起きて、地下から上がって夜のうちだけ窓を開けて。自分の身支度を済ませたら咲々牙の体を拭いて、髪を梳かして。花瓶にさす新しい花を庭から摘んで、それぞれの部屋に飾って。そ…

7.朔 【表】

窓辺の花瓶の水を今日も入れ替える。さした花はもう枯れかかっていた。最近は摘みに行くことも減ってしまったから無理もない。そのすぐそばのベッドで横たわるのはオレの愛しい人。目を閉じて静かに呼吸をしていると生を感じないくらいだ。だけどわずかに上下…

6.翳

ちいさな白い花が咲き乱れる中に私と鎖月二人だけ。風が吹けばその葉がザアとさんざめいて私たちの髪を揺らす。いつしか花は星の明かりを受けて淡く光りを灯して、小さな光と花弁が風に舞う。そんな幻想的な景色に言葉を失くして二人でただ立ち尽くしていた。…

5.儀 【裏】

異変を感じたのは、杯に注がれたあの人の血を飲み干してすぐのことだった。全身が焼けるように熱い。薄暗いはずの地下も燭台の光が異常に眩しくて、湿った匂いがやたら強く感じられた。体の感覚全部がうるさくて、気持ちが悪い。立っていられない。大丈夫だと…

5.儀 【表】

窓の外の景色からは色彩が失われ、風が吹くたび枯れ木が淋しく枝を揺らしていた。この季節はどうにも好きになれない。四季の彩りを感じるようになったのはあの子と暮らし始めてからだけれども。それでもやはり過ぎゆく時間に焦燥を感じて、落ち着かなくなって…

4.戯 【裏】

「咲々牙?寝ちゃったの、か?」オレの上にのしかかったまま、穏やかな寝息をたてていた。まったくもう、これじゃ動けないじゃないか。まだ触れられた感触が忘れられないでいるオレの気も知らずに一人だけ寝るなんて、ずるい。でも、咲々牙はそんな人だってよ…

4.戯 【表】

すっかり日も落ちて、窓から細い弧を描く月が覗く頃。「ねえ、さつきの思う『えっちなこと』ってどのくらいのことなの?」「し、知らないっ!」いつかの避けられていた原因のことを今日もさつきに問うてみる。しかしながら、答えてくれるつもりはないみたい。…

2.疑

半分の月が窓から顔を覗かせる頃、涼しい風がカーテンをゆらし吹き抜けていく。そんな景色を眺めて艷やかな黒髪のあの人は微笑んだ。あの日、両親を亡くしてからオレはあの人――咲々牙と一緒に暮らしている。遺体は見ないほうがいい、とすぐにあの人が埋葬し…

誰かの日記

2/16今日は何もなかった。アナベルに睨まれたような気がした。あの二人はよくわからない。少し怖い。2/17あの人が地方へ演説しに行くらしい。食料として僕は連れて行かれるようだ。ヅゥリンは留守番だと伝えられ不満げな顔をしていた。2/18馬車は…