空想の外側にある本の内側から外側へ
「よくもまあ悪びれず来れたものだ」幾度目かのため息。■■はテーブルの上の一冊の本の表紙を撫でる。こちらが何か言うより先に■■は口を開く。「過去は本のようなもの」その本は簡素な装丁に、認識することができない不可思議なタイトルをしていた。「全て…
文章 白昼夢
そう囁いて、終わらせて
「目は覚めた?」「悪い夢を見ていただけだよ、きっと」懐かしい声、かたち。横たわる体を覗き込むその顔は、何度も思い描いたそれそのもの。頬に触れる手は冷たかった。「だいじょうぶ」「何も苦しいことなんてないんだよ」「カミサマが、いるから」ずっと、…
文章 白昼夢
エンドロールの最果てにて【B】
懲りずにまた来たのか。誰も入れないようにしてるはずなのにいったいどんな抜け道を使っているんだかね。まあいい。今はお前に構うつもりはない。忙しいのでね。勝手に見ていればいい。どうせすぐに飽きるだろう。椅子の周りに散らばってる物?これは□□の成…
文章 白昼夢
エンドロールの最果てにて【A】
最後の一人も振り返らずに立ち去り、開いた門は役目を終えて閉じましたとさ。おしまい。これでこの世界はおしまいなんだよ。門は二度と開かないしここには誰もいない。ここの外だってもうない。皆正しいかたちに戻して還してやった。だからもうここにいる必要…
文章 白昼夢
角の感触
「角って触られるとどんな感覚?」私をひざ枕をして頭をなでていたご主人様がふと言った。青と緑の境界のような瞳が静かにこちらを見つめる。……この状況はその、私が頼んだりしたわけではなくて、ご主人様がそうしたいと言うからこうなっているだけで。とに…
文章 未分類甘
8.咲 【裏】
終わりのない悪夢の一部と思っていたそれはどうやら現実のようで、耳に届く恨み言は徐々に鮮明さを増していく。「…………あなたなんてきらいだ」「……ごめんね」とっさに口から出たのは詫びる言葉。夢で何度繰り返したことか。「……っ!」「あはは、なんだ…
小夜啼吸血鬼譚 文章BL
8.咲 【表】
淡い花の蕾はもう明日にも開きそうだった。それでもあの人は眠ったまま。やっぱりもう、だめなのかもしれない。そんなことを眠たい体を起こしながら思う。それは仕方がない。仕方のないことだと自分を納得させようとして、また涙があふれる。こんなことをして…
小夜啼吸血鬼譚 文章BL
頁外1.嘘をついていい日
※エイプリルフールネタ、眷属化後のいつかの時空「今日は嘘を吐いてもいい日なんだって」にこにこしながら唐突に言い出す咲々牙。よくあることだ。それでいきなり買い物に行ったり、星を見に行ったり色々付き合わされる。そうやって強引に付き合わされるのも…
小夜啼吸血鬼譚 文章BL,微エロ
7.朔 【裏】
あの日から一年。今ではもう毎日の流れが馴染んでしまった。咲々牙の隣で眠って起きて、地下から上がって夜のうちだけ窓を開けて。自分の身支度を済ませたら咲々牙の体を拭いて、髪を梳かして。花瓶にさす新しい花を庭から摘んで、それぞれの部屋に飾って。そ…
小夜啼吸血鬼譚 文章BL
7.朔 【表】
窓辺の花瓶の水を今日も入れ替える。さした花はもう枯れかかっていた。最近は摘みに行くことも減ってしまったから無理もない。そのすぐそばのベッドで横たわるのはオレの愛しい人。目を閉じて静かに呼吸をしていると生を感じないくらいだ。だけどわずかに上下…
小夜啼吸血鬼譚 文章BL
6.翳
ちいさな白い花が咲き乱れる中に私と鎖月二人だけ。風が吹けばその葉がザアとさんざめいて私たちの髪を揺らす。いつしか花は星の明かりを受けて淡く光りを灯して、小さな光と花弁が風に舞う。そんな幻想的な景色に言葉を失くして二人でただ立ち尽くしていた。…
小夜啼吸血鬼譚 文章BL
5.儀 【裏】
異変を感じたのは、杯に注がれたあの人の血を飲み干してすぐのことだった。全身が焼けるように熱い。薄暗いはずの地下も燭台の光が異常に眩しくて、湿った匂いがやたら強く感じられた。体の感覚全部がうるさくて、気持ちが悪い。立っていられない。大丈夫だと…
小夜啼吸血鬼譚 文章BL,R-15